観用少女 ⁄ 天使ちゃん(仮)
プランツちゃんたち のお話は前にしたよね?
うん。
で、「天使ちゃん(仮)」って......?
羽の生える観用少女(プランツ・ドール)のエピソードがあるんだよ。
ただ、その子には名前が付けられて無くて、「少女(プランツ)」としか呼ばれていないんだよね。
それで、「天使ちゃん(仮)」......なんだ。
そう。
......でも......「(仮)」って......ちょっと......
そうだよね。だから、ここの話の中では「天使ちゃん」で行こうか。
うん、そうだね......その方が良いね。
......で、天使ちゃんというからには、天使の羽があるんだよね。
ん、まぁ、鳥の羽ね。一瞬羽ばたいただけで、消えてしまったんだけどね。
......一瞬だけ?
そ。順を追って話すよ。
うん。
まず、少女(プランツ)たちは、自分と波長の合う人に出会うまでは眠り続ける。
少女ちゃんに気に入られないと、お友達にはなれないんだよね。
そう。マスターの愛が無いと少女たちは枯れてしまうから、
彼女たち自身にパートナーを選ぶ権利があるのは当然かな......って思うけどね。
ん......それは、私も同じ......かな。
......それで?
人間の肩胛骨は翼の骨の名残、尾てい骨は尻尾の名残、犬歯は牙の名残......
少女の中には、そういうものを進化させる"種"を持っている子がいるんだって。
じゃ、その子は翼を進化させる種を持っている子なんだ。
そういうこと。それで、眠っている間に"発芽"に必要な力を蓄えるらしいんだね。
じゃ、一瞬で羽が消えたのって、力が足りなかった......ってことかな?
うん。準備が完璧に整っていないと一瞬だけの"覚醒"だけで終わっちゃうらしい。
このお話の天使ちゃんは、偶然に波長の合う男の子と出会って目を醒ましたから、
その一瞬の"覚醒"の後、元の姿に戻ってしまった。
う~ん、ちょっと......残念だよね。
......一瞬の"覚醒"だったのは確かに残念なのだけど、
その一瞬の間に天使ちゃんが登場人物のみんなに —— もちろん、僕にもね ——
与えてくれたものは......とても大きかったよ。
......ん?
自分の身長の倍はあろうかという羽を広げて微笑んで、
たった一回だけど大きく羽ばたいた天使ちゃんはとっても綺麗だった。
羽根が......いっぱい飛び散って......ね。
それを見たみんな......泣いていたね。
......僕もね。
この光景を見た物語の語り手の青年は、こう言った。
長い
長い間
夢を見ていた
気がする
その一瞬に
とても
幸せな
僕もこれ以上の言葉は見つけられないし、見つける必要も無い......と思う。
......そうだね。
『観用少女—プランツ・ドール』 | © 川原由美子 |